徴税吏員(ちょうぜいりいん)ってどんな仕事?与えられる権限と制限について解説

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徴税吏員って言葉を聞いた、あるいは漢字を見たけど、読み方が分からない。

そもそもどんな事をしていて、どんな権限を与えられている人なんだろう?

区市町村の徴税吏員として5年間税金の徴収業務を行っていた筆者が解説します。

 

徴税吏員とは?読み方は?

「徴税吏員」の読み方は「ちょうぜいりいん」です。

徴税吏員とは税金の滞納者に対して滞納処分を行う権限を与えられた人。

主に、滞納者に対して①督促状・催告書の発布、②滞納者の財産の調査、③差押や交付要求など滞納処分、④税金を納付する資力の確認などの業務を行います。

徴税吏員には首長から「徴税吏員証」が交付され、この徴税吏員証を持参し、上記のような業務にあたります。

実際には直接業務あたるケースはほとんどないですが、その区市町村首長も徴税吏員という位置づけになっています。

「徴税吏員」は地方税法第1条第1項第3号に規定されており、通常区市町村役場の「納税課」「収納課」「税務課」などいった部署の職員達が任命されています。

 

徴税吏員の権限とは

滞納者に対して税を徴収する事を使命としている徴税吏員ですが、具体的には下記のような権限を与えられています。

自立執行権

自立執行権とは債権者が自ら債務者に対して強制的に債権を回収する権限の事です。

徴税吏員は自ら滞納者の財産を差押え、公売等し、税金に充てる事ができます。

通常、金融機関が貸したお金が返らなかった場合に、お金を返すよう催促はできても、強制的に返させる事はできません。

裁判所等に申立て後に、裁判所から認められる事で初めて財産を差押えられる状態になります。

税の重要性、特殊性に加えて、税の徴収が大量性、反復性を有し、徴収のための煩雑な手続きを要求する事が困難である事をを考慮して徴税吏員にはこの自立執行権が認められているとされています。

つまり、税の徴収が重要な位置づけをさられており、その事務の膨大さから裁判所の手続きを経るなど煩雑な事務を行っていると、スピーディかつ柔軟な対応ができなくなってしまうため、特別な権限が認められているという事です。

 

質問検査権

徴税吏員の質問検査権は国税徴収法141条によるもので、徴税吏員は滞納処分のため、滞納者の財産を調査する必要があるときにはその関係者に質問、検査をする事ができます。

これにより銀行や生命保険会社、勤務先、取引先など滞納者の債権を有している可能性のある者に対して財産調査をする事ができます。

この質問、検査に対して受けた人が嘘の報告や拒否をした場合に、罰則規定(国税徴収法188条、第189条)が設けられているほど強力な権限と言えます。

 

徴税吏員の守秘義務について

自立執行権、質問検査権など個人に強力な権限を与えられている徴税吏員ですが、その分、大きく制限されている事があります。

それが守秘義務です。

元々、公務員には地方公務員法第34条第1項で「職員は職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後もまた同様とする」として業務で知り得た情報をむやみに漏らすことを禁じています。

さらに徴税吏員は地方税法第22条で「地方税に関する調査の規定に基づいて行う情報の提供のための調査関する事務に従事している者又は従事していた者はこれらの事務に関して知り得た秘密を洩らし、又は窃用した場合においては二年以下のの懲役又は百万円以下の罰金に処する」

として地方税法で制限しています。

初めて徴税吏員になった時に、徴税吏員の把握している情報の多さにとても驚きました。家族構成、収入や所得の情報、所有の銀行口座、過去の納付履歴、過去の相談内容など…。

滞納者の生活状況をある程度把握できるほどの情報を知る事ができるようになっています。

これらの情報は滞納処分等のためにやむを得ず、得た情報であり、それをむやみに第三者に教える事は人権侵害にもなり得る事になります。

地方公務員法地方税法の罰則規定を比較した際に地方公務員法では「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金」と規定されているのに対して、地方税法では「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金」とより重い規定となっています。